iPhone Air レビュー/“Air”の代償、Foldへの序章
Yusuke Sakakura

Yusuke Sakakura
ブログメディア『携帯総合研究所』の創設者・運営者です。記事の執筆をはじめ、各キャリアやメーカーへの取材、素材の撮影も行なっています。システムエンジニアとしての経験を活かし、HTML・CSS・JavaScript・PHP・Pythonを用いたサイトデザインやテーマの構築を行っています。また、4キャリアの料金比較ができるシミュレーターの開発も担当しています。

正直、まったく期待していませんでした。わずか2年で姿を消したminiと同じ道をたどる、そう思っていました。
これまでのコンパクトやスリムを売りにしたスマートフォンは、触れた瞬間こそ感動があるものの、その熱はすぐに冷めてしまう。バッテリーやカメラで他機種に劣り、結局は買い替えの候補から外れていくことがほとんどでした。
iPhone Airはそうした代償を払ってでも欲しいと思える存在です。
超薄型のAir体験
最新ラインナップのうち「iPhone Air」は、ファーストインプレッションで最も衝撃を受けたモデルでした。
iPhone 17 / 17 Pro / 17 Pro Maxは触る時間が増えるほど魅力が増えていきますが、iPhone Airは触った瞬間に絶頂を迎えます。

iPhone史上最薄の5.64mm。手に取った瞬間、その薄さに驚き、軽さに2度目の衝撃を受けます。ポケットに入れても圧迫感や重さを感じない、“Air”という名にふさわしい体験です。
特に今年のスマートフォンは、高機能化や大容量バッテリーの搭載によって急速に重量化が進み、ハイエンドモデルは軒並み190g後半または200g超えています。iPhoneも一度は187gまで軽量化しましたが、iPhone 17 Proは206gにまで逆戻りしました。
そうした中で登場した薄さと軽さを極めた165gのiPhone Airは筆者が待ち望んでいた存在。
ここ数日、iPhone Airを左ポケットに、iPhone 17 Proを右のポケットに入れて過ごしていますが、気づけばいつも空になっているのは左ポケットです。
- iPhone Air:165g
- iPhone 15 Pro:187g
- iPhone 16 Pro:199g
- iPhone 17 Pro:206g
- Pixel 10 Pro:207g(+8g)
- Xperia 1 VII:197g(+5g)
- Nothing Phone (3):218g(+17g)

“Airな体験”を実現した秘訣は内部構造の再設計です。
“プラトー”と呼ばれる端末上部に、前後2つのカメラ、スピーカー、Appleシリコンといった主要部品を集め、その下に大容量のバッテリーを配置しました。

プラトー周辺に主要部品を集めたことにより、端末の上部に重心が片寄ることも心配していましたが、手からこぼれ落ちることも、落ちかけたりすることもありません。
超薄型による最大の懸念は耐久性です。
これだけの薄さにも関わらず、手に持っても弱さはまったく感じません。
発売前の先行レビューでは、手で折り曲げるテストを何度も見ましたが、Appleがそれを許可または推奨したのは明らかです。それほど自信があるということでしょう。
プラトーがアルミニウムで覆われたiPhone 17 Pro / 17 Pro Maxは、Apple Storeの展示機に傷が付いていたり、背面の塗装が剥げていたりしますが、iPhone Airはガラスなので心配なのは割れることだけ。
その不安も耐亀裂性能が4倍に向上したCeramic Shieldを背面に初めて採用することで軽減されています。
また薄さを犠牲にすることなく耐久性を高められるアクセサリ「iPhone Air バンパー」も販売されています。ただ、ここまで極限に削ぎ落とされたものをケースで大きくするのは好みではないので筆者はスルー。

ディスプレイは6.5インチ。この軽さにiPhone 17 Proを超えるビッグスクリーンが収まってるのは不思議な感覚です。
超薄型ボディはガシッと鷲掴みにしてタップやスクロールできるものの、持ち手との対角側には指が届かないため、やはり両手操作が基本になります。
“Air”の代償
“Air”という名にふさわしい体験と引き換えに、いくつもの代償を払っています。
其の壱:シングルモノラルスピーカー
USB-Cの幅ギリギリまで追い込まれた底面。ここのホールはマイク。スピーカーは端末上部に通話兼用が1つあるだけです。
つまり、シングルモノラルスピーカーです。音質に問題はありませんが、音の聞こえ方は不自然に感じます。

iPhoneを縦向きにして見ることが多いInstagram、TikTok、YouTubeは問題なし。ただし、横向きで映画やスポーツを視聴したり、ゲームをプレイするときは明らかに片方からしか音が聞こえないので大きな違和感があります。
またiPhone 17 Proと比べて明らかに音量は小さく、レシピ動画を見ながらキッチンに立って炒め物をしていると、音に負けて聞こえづらくなります。音量上げればいい話ですが、上げるとそのままにしてTikTokを立ち上げると爆音が流れてビックリするというのを何度かやっています。
もうひとつ心配なのはアラーム。
画面を伏せた状態で朝を迎えるとアラーム音が小さくなり、起きられるのか気にしている人も多いと思いますがこれは問題なし。またアラーム音は設定画面の「サウンドと触覚」にて、着信音と通知音の項目にあるスライダーで大きくすることも可能です。
其の弐:USB-C
USB-CはUSB 3・転送速度が最大10GbpsのProモデルに対して、iPhone AirはUSB 2.0・転送速度は480Mbpsです。
Apple ProRAWやProResといった大容量コンテンツには対応していないため、USB 3.0は必要ないと判断されたのでしょう。
セットアップ時のデータ転送でiPhone 17 Proを有線、iPhone Airを無線で試してみましたが、無線の方が30分も短く完了するという結果になりました。
其の参:eSIMオンリー
Appleは超薄型のボディに大容量バッテリーを搭載するために、SIMカードトレイを廃止。いわゆるeSIMオンリーにしました。
これまではピンを刺してSIMカードを差し替えるだけでしたが、これからは画面操作が必要です。
eSIMクイック転送に対応しているキャリア系ならカンタン。一方で、格安SIMサービスやAndroidから乗り換える場合は面倒な再発行が必要です。
再発行では本人確認のために免許証やマイナンバーカードの撮影、自撮りが必要になることも。手数料がかかることもあります。
とはいえ多くの人にとって大変な作業は数年に1回の機種変更のときだけです。
障害などトラブルに弱いのもeSIMの弱点です。
iPhone Airの発売日にドコモが設備障害を起こしたことで、eSIMの開通が不可能になり、多くのeSIM難民が生まれました。
これから移行を行う人は、以下のガイドを参考に安全にeSIMを移行してください。物理SIMカードを使っている場合はどうしたらいいのか、Androidから乗り換えるときに困ることなども詳しく解説しています。
其の四:発熱・放熱性能
チップはiPhone 17 Proと同じA19 Proです。ただしベイパーチャンバーが搭載されていないため、発熱が気になります。
初期設定を行ったところ本体表面の温度が最大で50°Cに到達。4K/60fpsで動画撮影を開始すると、開始5分で40°C、30分で50°Cまで上昇しました。撮影が止まることはありません。
また、iPhone 17 ProはベイパーチャンバーとアルミニウムUnibodyによって、本体の熱が全体に拡散されるのに対して、iPhone Airはプラトーに熱が集中します。


iPhone Airはプラトーに指をかけて操作することも多くなりますが、思わず「熱っ!」と声をあげるほど高温になることもありました。
チップの性能自体は素晴らしく、CPUはスマートフォンで最速クラス。GPUはiPhone 17 Proに比べてコア数が1つ少ないものの、演算能力はMacBook Proに匹敵するとのこと。
Vlloで動画編集したところ約20分の素材から1分間のショート動画をサクッと作れました。
将来まで快適に操作できることと、より長いアップデートが約束されているようなものですが、現時点ではApple Intelligenceの機能が乏しく、これだけ高性能チップの使い先が動画編集やゲーミングぐらいしかないのは寂しいところ。
発表イベントでもAIについて多くは触れられませんでした。
AIが写真をうまく撮れるように指導するカメラコーチや、アプリ間を行き来しながら調べなければいけない情報をAIが提案してくれるマジックサジェストを大々的にアピールしたGoogleとは対照的です。
其の五:シングルカメラ
iPhone Airのバックカメラはシングルカメラです。
画質に大きく影響するイメージセンサーはiPhone 17と同じSony IMX904を搭載。センサーのサイズはiPhone 17 Proよりも小さく、暗所撮影は少し弱めですが、2倍ズームの範囲内であれば十分綺麗に撮れます。
光学ズームやマクロ、超広角撮影には対応していません。ただ、超広角カメラがないことで画質が劣化するマクロモードに切り替わらないという副産物もありました。
またシングルカメラながらポートレートモードで人以外も背景をぼかして撮影できます。













動画撮影では、手ぶれ補正の影響で写真よりも画角が狭くなるため、超広角に切り替えることもありますが、iPhone Airにはその選択肢がありません。さらに、背景をぼかしながら撮れる人気のシネマティックモードにも非対応です。
用意されているオプションは、手が届く範囲を切り取るのに便利な2倍ズームと、ワンタップで焦点距離を変えられるカスタム機能など。筆者が常にオンにしているProRAWにも対応していないのは残念です。
このように撮影時に選べるオプションが少ないことが、iPhone Airのカメラ最大の弱点。とはいえ、日常の撮影用途であれば十分に実用的なカメラです。

フロントカメラは、より広い画角で最大18MPで撮れるようになりました。
革新的なのは八角形のセンサー(有効形状は四角形)を搭載したことで、iPhoneを縦持ちにした状態でも横長の写真を撮れるようになったこと。
セルフィしようとしたら画角に入らなくて、iPhoneを横向きにして持ち替えるといった“あるある”がなくなり、さらに縦向きの安定した状態で手ぶれを抑えて撮影できます。
さらに、動画ではバックカメラとフロントカメラで自分の表情と見ているものを同時に記録できる「デュアルキャプチャ」に対応。Apple 銀座の先行内覧会の様子をデュアルキャプチャで撮影してみました。
🗣️新しいApple銀座の見どころ紹介
🔹1F、映えるiPhoneの展示デザイン!!開放感のある吹き抜けも🔹2Fに東京初のピックアップカウンター!!🔹3FでNumber_iの特別コラボセッション。壁のディスプレイにMVが少し流れるのでファンの方は撮り忘れなく!!🔹4Fは修理等できるジーニアスバー
👇詳細はリプにて https://t.co/WxcTRFRiw5 pic.twitter.com/3GvvHnneSN
— Yusuke Sakakura🍎携帯総合研究所 (@xeno_twit) September 25, 2025
惜しいのはバックカメラとフロントカメラの映像が別々で保存されないこと。また大きく記録されるのはバックカメラの映像のみ。フロントカメラの映像と入れ替えることもできません。
其の六:電池持ちはまずまず
Appleは超薄型ながら電池持ちを優れたものにするため、大容量のバッテリーに加えて、消費電力の優れたAppleシリコンを搭載しています。
A19 Proに加えて、新しいN1ワイヤレスネットワークチップとAirだけに特別なC1Xセルラーモデムチップを内蔵。
C1XはiPhone 16eに搭載されたC1の改良版。最大2倍高速ながらiPhone 16 Proに比べて30%も省エネです。
Appleはこれまでで最も電力効率が優れていると説明していますが、実際に使ってみると、画面オンの状態やカメラの使用中は電池が急速に減っていきます。特に外出時に消費電力が増える印象があります。
例えば、電車移動中にAirPods Pro 3でYouTubeで動画を視聴したところ約1時間で20%を失いました。その後、Googleマップのナビ機能を使いながら200枚ほどの写真を撮り終えると結果的に4時間ほどで80%のバッテリーが0%に。
超薄型のスマートフォンとしてはかなり頑張っているものの、スマートフォンとしては物足りないというのが正直な評価です。

またバッテリーの寿命も気になるところ。
この1年間、iPhone 16 ProをほぼMagSafeだけで充電したところ、充電サイクルは337回で性能は94%まで低下しました。
交換目安とされているのは80%ですが、ここに到達したときは、明らかな電池持ちの悪化を感じているとき。
85%が交換のタイミングとすれば3年間は利用できる計算。ただしiPhone Airには高密度バッテリーが採用されており、ほかに比べて発熱しやすいことを考えると、劣化の進行具合はこれまでと異なるかもしれません。
充電性能は他の3モデルが約20分間で最大50%の高速充電に対応しているのに対して、iPhone Airは従来と同じ約30分間で最大50%で、フル充電までの時間は1時間45分でした。
まとめ:Airの感動はまだ序章
発表前はまったく期待してなかったiPhone Airですが、実際に使ってみると、Airの軽やかな体験に感動しました
この感動を得るためには6つの代償が伴います。これまでのコンパクトやスリムを売りにしたスマートフォンでは、バッテリーをはじめ多くのことを諦める必要がありました。ところがiPhone Airで求められる代償はカメラだけ。ほかはどれも受け入れられる範囲に収まっています。
カメラを多用しない人にとって、iPhone Airは最適な選択肢です。薄型と軽量がもたらす体験は、ほかのiPhoneにも、そして日本で発売されているAndroidにもない特別なものです。
iPhoneに“ワクワク”や“驚き”を求めている人にも最適な選択です。
そして、Airから感じるこのワクワクは、おそらく折りたたみのiPhone Foldへとつながる序章です。折りたたみスマートフォンに魅力を感じているなら、いまのうちに“代償を払って何かを得ること”に慣れておくといいかもしれません。

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